2018年11月12日月曜日

ヨメにきた時、植えたミカンたい。五島の思い出。帰りたい

「トン、トン」と自室の戸を叩く。「居りますか、のう?」。戸を開けると、この顔。おだやかな、やさしい、この顔。80半ばの女性。
★教会へ行くにも、食堂へ行くのも、小さな押し車を頼りに、ゆっくり、腰をまげて、ゆっくり足を交わしながら、「そーれ、よいしょ、あ、こーれ」と掛け声をあげながら歩く。私の自室の前の廊下を、いつも行き交う。
★手にしたミカン。手押しクルマから1つ、1つと取り出して、私にくれた。4個くれた。説明が付いている。「わたしが、ヨメにきたとき、植えたミカンたい。おいしかぞ、もらって、くれん、ね」「五島は、どこな?」「上五島たい」「上五島の、どこな?」「若松、たい」「ああ、知っとる」。島と、島をつなぐ大橋がある。海に面した教会。ステンドグラスが美しく、聖体拝領台が残っていた記憶がある。
★この女性に、いつも癒される。ミサ、ロザリオと、信心深い。動作が、おだやか。おそらく若い頃は、教会でも、集落でも、まとめ役だったのだろう。誕生会でマイクを持たせると、それは落ち着いた声で、リッパに歌謡曲を歌う。
★五島で、「かわいい」ことを、「ミジョーカ」という。娘盛りの、あのツヤ、ツヤした肌の「かわいさ」の表情だ。おそらく、この女性も、そう言われていたに違いない。子供も孫も居るが、健康の都合で、6年ほど前に、ホームに入った。「五島へ、帰りたいーよ。帰りたか」が口ぐせ。
★前にも、ミカンをもらって、日記に書いた覚えがある。自分が植えたミカンを、いま、どっさり、送ってきた。何人かに、配ってまわり、後は大きな包みは、職員さんの処へ、「さー、こら、よいしょ、こーら」と、手押しクルマに頼りつつ、去って行った。「ありがと、ね」

1 件のコメント:

  1. ささやかな日常のひとこまを、優しく切り取って、教えていただいて、ほっこりします。おばあさんと登明さんの会話もいいですね(^_^)
    ただ、おばあさんの口癖が少し悲しい気がしました。いつか、上五島に行ってみたいです。

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