2020年6月5日金曜日

登明「話の小箱」2匹の犬『火の国テリア』。悲しみのイヌ祈る

突然、教会の前の通りで、イヌの悲鳴がおこった。
アイルランド人の神父さんが、飛び出してみると、哀れ、神父さんの愛犬ジョン(7歳)が、タクシーにひかれて絶命していた。
「おお、どうしよう」と、神父さん、アタマかかえて絶句。
「まあ、かわいそうに、いいイヌだったのに」と、教会のお手伝い(昼・夕の食事をつくる)さんはナミダし、神父さんは落胆した。
その後、あまりにもお手伝いさんが寂しがるので、「また、代わりのイヌがほしいね」と神父さん。
死んだジョンは、『火の国テリア』といい、外国産の血統を持ち、真っ黒い毛並みの、品のいいイヌだった。
「今度も、火の国テリアが、いいね」と、同じ血統の黒犬を所望し、望みがかなって連れて来られたのが、手のヒラに乗るような小犬であった。
「まあ、かわゆィわ、ね」と、お手伝いさんがハカリにかけてみると、450グラムあった。神父さんは、このイヌに「レックス(王様)」と名づけた。
レックスは、かしこいイヌだった。神父さんは、大層かわいがり、車に乗せて連れて回る。やがて体重3キロ、体長50センチのイヌに成長した。
ところが、ある日、突然、今度は、神父さんが思わぬ事故にあった。
教会の子供たちを連れて、海水浴に行った神父さんは、波にさらわれて急死した。享年65。神父生活35年。神父さんは、額縁に入って、教会へ戻って来た。
その写真をみるや、レックスは、いきなり飛びついた。吠えたり、額を噛んだり、ジーッと座って眺めたり、何日も、何日も、写真と、悲しそうな対面の日がつづいた。
やがて、もの言わぬ神父さんにアキラメたのか、今は、お手伝いさんが額縁の前で祈る時、レックスも横に座って、「お祈り、しとります」
それでも、王様の目は、悲しいです。

2 件のコメント:

  1. がぶらってぃ2020年6月7日 15:09

    いたましいお話です。
    レックス(王様)にある悼む気持ち、偲ぶ思いは
    愛なのだと思います。

    神がなぜジョンを望んだのか。
    それも教会の前で起きる事故で。

    なぜ神父さんを望んだのか。
    それも子供達と一緒に出掛けた海で。

    わかりません。

    けれど、その人生に想いをいたし、生の意味を考え、
    伝える事柄の重みを感じ取ることで、
    見えてくるものがあるように願います。

    トマさん、悼み偲ぶ思いを強くする機会をくださり
    ありがとうございます。


    それもタクシーによる事故という形で。

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    1. がぶらってぃ2020年6月7日 15:11

      すみません。最後の1文は上の「教会の前で起きる事故」の
      ところに入れるつもりでいたものでした。
      書きかけで送信操作を失敗しました。ごめんなさい。

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