人生の中で、どうしても消えない痕跡がある。彼に出会った表情も、周りの風景も、彼の息遣いも、忘れない。
★昭和の終わり頃、何十回となく「長崎オラショ巡礼の旅」を行なった。その巡礼に、同じコースを5年余り、毎回、参加する老人が居た。丸いメガネをかけて、痩せ型で、少し背が曲がって、本も出版した事もある文学者の男性だった。
★その頃の巡礼で最も印象に残ったのが「神の島」だった。当時は船で神の島に渡った。信徒が長崎港・大波止までわざわざ出迎えに来る。船が神の島の岸壁に着くと、主任司祭はじめ、大勢の信徒が出迎えて、大挙して行列して、教会と「ドンク岩のマリア像」へ巡礼し、時には信徒会館で、交流の踊りなど披露するのだった。その時、私の傍で寄り添っていた、あの巡礼者の男性「山本吉見さん」が浮かび上がってくる。
★吉見さんは、歩きながら私に、こう言った。「お遍路さんを大切にする。あの心に似ていますな」。そして続いて、こうも言った。「天主堂で神父さまの話を聞きながら、昔読んだ浦川和三郎師の『切支丹の復活』を思い出したんです。神の島に中ノ瀬弥市という人がいて、とても信仰熱心だった。天草のキリシタンと長崎の神父さまとの橋渡しをした事もある人です。あの子孫はどうなったのか。ふと、そんな事を考えました。それで案内のご婦人に声をかけてみたんです。『中ノ瀬の子孫は、まだ居ますか』。すると『わたしが、その中ノ瀬の子孫です』と言うじゃありませんか。血縁につながれた信仰の歩がみが、明治、大正、昭和と生きつづけているのを感じますね。その人たちとの出会いを神に感謝しました」。吉見さんの言葉が印象に残った。
★吉見さんは、最後に参加されたとき、「小崎さん、もう疲れたよ」と言って、私に、金のネクタイピンを贈ってくれた。真ん中に「イエスの聖心」がついている珍しく美しいネクタイピンだった。私は、このネクタイピンを大事にした。特別な時と、何か重要な出来事の出席には必ずこのネクタイピンを付けた。
★そして思いもかけず、去年の年末の日記のコメントに、福井の「あつこ」さんから「十七歳の夏を読んでいます。私の祖父は、山本吉見といいます」と記してあった。このコメントを読んだとき、私の胸には強烈な思いが湧き起こり、「吉見さんの思い出」が一挙に押し寄せてきた。忘れない、あの山本吉見さんを。「あつこ」さんによると、吉見さんの家にもおじゃましたという。吉見さんは、昭和59年、79歳で神に召された。
★形見に戴いた、あの大切なネクタイピンは、今も、私の手元に大切にしてありますよ。イエスの聖心が中心にある、珍しい、美しいネクタイピンです。「あつこさん、お祖父さんの跡を慕って、長崎巡礼に来て下さい」。コメントの返事に「自著『長崎オラショの旅』(聖母文庫)を読んでください」と勧めた。山本吉見さんの安息を祈ります。
トマさんこんにちは(^O^)
返信削除ステキなネクタイピンですね〜
長崎オラショ巡礼の
返信削除山本吉見様のお話し有り難うございました。
大変感銘を受けました。
小崎さんと初めてお会いした日
神の島のドンク岩のマリア様の
夕陽を見に行くよう勧めて下さいました。
神の島教会にも巡礼致しました。
夕ミサにご高齢の信徒のご婦人のグループが助け合いながら階段を休み休み上がっておられました。
皆様お優しい笑顔でご挨拶して下さいました。
巡礼団も迎えて下さった方もおられたのではと
山本吉見様の安息を願います。
祈りと感謝のうちに
このタイピンを吉見さんよりいただいて30数年経つのですね。吉見さんを偲ばれながら大切な場所に何度も何度も身に着けて出席されたのですね。そのお孫さんがブログを読んでコメントをくださる、なんというめぐり合わせでしょうね。このタイピンの写真の日付が2018.12.31になっていて、退院して6日目で体調が思わしくないと書いておられます。しかしそれを押して写真を撮って公開されています。トマさんの精神力。このブログの前にただ茫然として佇むばかりです。いろんなことを教わります。ありがとうございます。体調がすぐれない時は忍耐せずにすぐに病院へ行ってくださいね。
返信削除小崎さんお身体ご自愛下さいませ。
返信削除みどりさんと同じ思いです!
祈りのうちに
登明さんありがとうございます。体調は如何ですか?
返信削除登明さんが入院された時から毎日お祈りをして祖父(吉見)にも助けてもらうようお祈りしていました✝️
まだ間もないのに長い文章で祖父の事を書いて頂きありがとうございます。とても嬉しいです。
あれから直ぐにオラショの旅を読ませて頂き祖父の箇所を何回も繰り返し読んでいました。
地図も分かりやすく書かれていたので本を読んで私もオラショの旅がしたくなりました。
今度長崎に行くときはオラショの旅の本を持って必ず巡礼に行きます。
その時に私も登明さんにお会い出来たら嬉しいです。
お体お大事になさって下さい。